竹工房資料室 佐々工房
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平成25年5月(2013年)
竹紙を漉きに行く
◇竹紙の体験講座へ
 水上勉の著作「竹紙を漉く」(文春新書)を読んで、以前から竹紙に興味を持っていました。昨年、三島市の富士竹類植物園に行ったときも、売店に竹紙のハガキがあったので買い求めましたが、それ以上の展開は無理だろうと思っていました。竹紙を作る工程を本で読むとその大変さがわかり(設備的にそして技術的にも)容易な作業ではないと知ったからです。
 ところが先日、新聞で竹漉き体験講座の、参加者募集の記事を見つけました。「竹和紙漉きと壁紙貼り体験」とあります。和紙漉きの講座はあっても竹紙は見たことがありません。さっそく申込んでみることにしました。場所は八王子で、主催は「八王子住まいづくり市民塾」。NPO法人「結の会」との共催事業とのことです。
先着順で10名までということだったので、抽選になるかもしれないと思っていたのですが、すんなりメールがきて、送迎車の手配の連絡もありました。まずはJR高尾駅に集合です。
 待ち合わせ時間ピッタリに会の方が現れ、参加者の確認をすると全部で6名、現地で1人加わって合計7名での体験講習と説明がありました。
 まずは結の会の作業棟に行き自己紹介です。男性の参加者は2人で、1人の方は紙関係の会社に長く勤めていた方、もう1人は竹林を所有していて竹紙が自分も作れないだろうかと考えて参加したということでした。女性は和紙漉きをしている方など5名。次に2つのグループに別れ、それぞれ竹紙漉きと壁紙貼りの体験です。
◇溜め漉きを体験
 紙漉きには溜め漉きと流し漉きがあり、今回経験したのは溜め漉きでした。溜め漉きは古代中国から伝わった方法で、金網を張った桁(木の枠)に紙料を1回ですくい上げ、桁を水平にして前後左右に細かく揺り動かす方法です。
 流し漉きは奈良時代の終わりから平安時代の初めに開発された日本独自の漉き方で、紙になる材料を汲み上げては前後左右にゆすり、求める厚さになるまで繰り返すもので、テレビなどでよく見かけるものです。
 今回体験した溜め漉きは、分量の材料を入れたあと、ならす程度でいいようで、女性は2人がかりで、金網をはった枠を向かい合って持ち、ゆすりました。実際、2、3回揺すっただけでもう大丈夫と言われました。60×40センチの大きさの紙を漉くので枠はそれより一回り大きく、そこに3,4センチの深さの別の木枠をぴったり重ねて、竹紙材料を入れてもらいます。重くて1人でゆするのは無理でした。
 金網がはってあるので紙になる材料を残して余分な水は下に落ちていきます。ここでおおまかな水分を切り、そのまま脱水機? の上まで持ってきてさらに水分をとばします。機械の全容を見なかったので、しくみはわかりませんが、木枠のなかで漉かれた竹紙材料の表面が、スイッチを入れると短時間(数十秒)で一気にしぼみました。
 次に上の木枠をはずし、漉いた紙の上に薄い茶色い紙をのせました。この紙を何と言うのか聞いたのですが忘れてしまい、あとでネットで調べてみたのですが、どうしてもわかりませんでした。漉いた紙同士が、重ねたときにくっかないように紙を入れて、といった記述はあるのですが、それ以上の説明がありません。この紙は使い終わると乾かしてまた使うようで、作業場の端の方にロープがわたしてあって、洗濯ばさみで止めて何枚もつるしてありました。
 この薄い紙と漉いた紙をぴったりくっつけるためだと思うのですが、次にブラシで上からこすりました。ブラシはまん中から端の方に向かって動かします。次にその2枚を木枠からはずし、用意されていた板にうつします。その後それを圧搾機にかけ、しばらくおいて乾燥機に貼るという段取りでした。
◇漉いた紙を乾燥機に
 乾燥機はステンレスの板が斜めにあわさった形で、横から見ると三角形の形をしています。板面は50度ぐらいに温まっていて、漉いた紙が片面で5枚ほど貼れる大きさです。
 貼るときにも、さきほどの茶色い紙が役立ちます。その紙の上に漉いた繊維がのっているというイメージでしょうか。これごと乾燥機に貼って(薄い紙が上になります)またまん中からブラシでこすりました。
 ここまでで1時間ぐらい。指導してくれる方がそばにいて手取り足取りの作業です。
 その間に材料となる竹の繊維を袋からとり出してきて、攪拌機がない場合はこういうふうにするのだという説明もありました。大きくて平らな石の上にのせて叩くのです。
 それを見ていて以前、シュロの皮でほうきを作ったときのことを思い出しました。それも体験講習だったのですが、シュロの木の皮をはぐところからはじめて、次にしたのが同じような作業でした。水のなかでシュロをもんでやわらかくし、木槌でたたき、その後、たたいてやわらかくなった皮を、金ブラシでこすって汚れなどをそぎ繊維だけにしました。竹も同じ作業をするようです。
 使用している攪拌機などの機械は、中古のものを手に入れたということでした。それでも高価なものなのでしょう。家に竹林があって竹紙づくりを考えているという男性は、機械の入手方法や用途などについて質問を何度もして、デジタルカメラで機械を撮影していました。
 作業場は20畳弱ぐらいでしょうか、攪拌機や圧搾機、乾燥機、材料置場、水場などが、動きやすいように配置されていました。
◇壁紙貼りを体験
 次に作業場の2階にあがって壁紙貼りの体験をしました。コツや手順を教えてもらいながら竹紙の壁紙を貼っていきます。
 作業棟を建てたとき、2階の壁はそのままにしてもらったということで、ボードをビスで留めたまま、むき出しの状態になっています。まずはそのビスの部分に小さく切った壁紙を貼って平らにします。ボードとボードの間の溝は、壁紙を長く切って埋めました。竹紙漉きの体験をした人が、これから順次貼っていくようですが、今のところはまだ7枚。全部貼り終わるのに1年以上はかかるだろうと教えてくださる方が笑っていました。
◇「八王子住まいづくり市民塾」
 もともとこの「八王子住まいづくり市民塾」は、地球環境に優しい暮らし方を研究し普及するために設立されたということです。なかでもとりわけ注目したことは、家の材料や工法と暮らし方で、20数年で家が建て替えられる日本の住宅は巨大な環境負荷要因だといいます。日々のリサイクルや省エネ活動ももちろん大事だが、住まいのあり方事体を変えていかなければならないと考えているようです。
 その後、八王子市西北部の小野田地区にある里山と竹林の提供を受け活動の範囲を広げました。会創立の理念と現在を結んでいる鍵は竹製の和紙壁紙で、壁紙をこれにすれば、炭酸ガスを長期固定することに役立ち、環境への負荷を減らせるというわけです。
 同時に竹紙は地域社会のさまざまな団体と個人をつないだといいます。NPO法人「結の会」と協力し、障害を持つ人たちが紙漉きをして販売もしているということでした。
 現在の活動は竹林の整備と竹紙原料作りが主で、竹の更なる利用のため竹チップや竹パウダーといった研究にも取り組んでいると説明がありました。また会員の特技を生かし「家庭大工お助け隊」も編成しているそうです。福祉施設を中心に壁紙貼りを含め棚作りなど簡単な工事や工作を請け負い感謝されているということでした。
 壁紙貼りをしている間に、竹紙が乾いたようなので、下におりて乾燥機からはがす作業をしました。その場合もまず、薄い茶色の紙をはがしてから竹紙をはがします。
 あとから紙漉きをしたグループが、あいた乾燥機の板に紙を貼り終えるのを待って、2台の車に分乗して次に竹林を見学に行きました。
◇竹林の見学と竹紙の材料現場へ
 きれいに整備された竹林でした。個人のお宅の、山の斜面にある竹林です。3年前から竹の年数ごとにしるしをつけ、伐るときはそれを基準にしているといいます。竹と竹の間はパラソルをさして歩けるのが理想ですが、それに近い形です。遊歩道も竹林の小山をぐるっとまわれるように整備してありました。
 時間がそれほどなかったので、一周はできず、途中で引き返して作業場を見学しました。ここで竹紙の材料をつくっているのです。
 枝が出る前の竹を伐り、節をとってこまかくして、水につけるのが最初の作業だそうです。枝葉が出てしまうと表面が硬くなるので、筍の背が伸びて枝葉が出る直前までに伐ってしまうといいます。大きなポリ容器が10個以上あり、そのなかで竹を発酵させていました。1年そのまま放置しているというポリバケツの蓋をとって中身を見せてくれましたが、それぐらいだとまだ臭うようです。中国では、以前は池に竹をそのまま沈めて、ほおっておいたという記述が水上勉の「竹紙を漉く」にあったことを思い出しました。
 次にそれを洗ってから薬品を入れて煮て、やわらかくするようです。竹の油抜きのときも苛性ソーダを入れて煮ますが、ここでは別の薬品を使っているということでした。環境に配慮してのことなのでしょう。
 竹を煮る釜は風呂釜を利用。確かに風呂釜なら竹のチップがたくさん入るし火をつけて煮るには最適かもしれません。釜の中には水洗いした竹のチップが縁まではいっていて、手を触れてもいいというので取り出してみると、繊維がほぐれるところまで分解されていました。それでもまだまだ硬く竹の状態を保っています。
 そこから、さきほど、紙漉きの作業場で見せてもらったやわらかい繊維状のものにして、それを攪拌機でくだき、どろっとした水状のものにするまで、手間隙のかかる作業であることが察せられます。私たちは体験講習に来て、紙を漉くところだけして終わりですが、その前工程は、年単位で長く時間のかかるものであり、材料を常に供給できる仕組みを構築するのは容易ではなかったろうと想像できます。
◇いろいろな竹紙
 作業場に帰ってからここで漉ったいろいろな紙を見せてもらいました。材料が竹、100パーセントという紙もありました。薄い黄色の紙で、竹の破片が、漉いた紙の上にちらしてあってきれいでした。黄色は竹の地色です。
 水上勉の本も何冊か置いてありました。作業場を見学に行ったこともあるそうです。その作業場は今は娘さんが引きついで竹紙を作っているということでした。
「竹紙を漉く」には、竹が成長するときにはがれる、茶色の皮を利用する記述があったので、そのことを質問してみました。
 両方使えるとのことでした。茶色の皮を使えば、茶色っぽい紙になるということです。また竹は真竹でも孟宗竹でもいいそうです。材料を調達している竹林の竹は、一部真竹もあるということでしたが、見たところ、ほとんどが孟宗竹のようでした。
 帰りには自分が漉いた紙とともに竹炭までもらってしまい、駅までの車中でも興味深い話をずいぶん聞きました。これからいろいろな挑戦を予定しているようです。今は主に壁紙を漉いているが画仙紙なども、専門家の意見を聞いて漉いてみたいということで、商品化についてもいろいろアイディアがあるようでした。
◇「八王子住まいづくり市民塾」の活動
 会の運営に携わっている男性メンバーは、おそらく年齢的に見て、退職した方々がほとんどではないかと推測しました。でものんびりとした雰囲気はなく、きびきびと動いています。結束も固そうで、誰に質問しても、答えがすぐ返ってくることに感心しました。竹紙漉きの講習は定期的に行われているため、慣れているということもあるかもしれませんが、このメンバーであれば、今後もさまざまな試行錯誤を続けて、豊かな里山を作り出していくに違いないと実感しました。
 それにしても、あらためて、竹が役立つ素材であることを思い知りました。竹林には毎年、自然に新しい竹の子が生えてきます。そのうえ成長が速くすぐ伐採できます。伐採しても次の年にはまた生えてくる。無尽蔵に利用できる自然素材なのです。
 ただ竹紙作りは手間がかかり技術的にも複雑なため、商品化するのは容易ではなさそうです。結局は紙の主流になれず、廃れていったという歴史があります。
◇参加者の様子あれこれ
 半日という時間的な制約もあって、ほかの参加者の方と突っ込んだ話ができなかったのは残念でした。和紙漉きをしているという女性とは別のグループになってしまったので、和紙漉きの体験談や竹紙を漉こうとした動機などを聞く機会はありませんでした。彼女はあらためてもう一度来るつもりらしく、その打ち合わせをメンバーの方としていました。
 紙関係の会社に長く勤めていたという男性とは別グループでしたが、車で移動したときは一緒になりました。そのとき工場での紙生産と比較した話をして興味深かったのですが、移動時間が短く、うなずいて聞くだけで終わってしまいました。彼は竹紙の材料についても、100パーセント竹ではないとき、ほかに加える材料の割合は・・・といった専門的な質問をいくつかメンバーにしていました。時間がもっとあれば、工場規模の生産ラインをもった紙つくりの現状について、話を聞けたかもしれません。
 工房は半日と1日単位で借りることができ、グループで来て1日中紙漉きをしていく人たちもいる、という話に興味を示した女性もいました。今回は紙を漉いただけですが、それに一手間加えて、模様をいれたり、染色したりすることも当然できるわけです。その女性はその方法についていろいろ質問していました。友人たちを誘ってもう一度、来ようかしら、と言っていました。10人以上いれば1人百数十円の負担ですむ借り賃です。
 商品化のアイディアについてもらす女性もいました。「結の会」で身障者の方が竹紙漉きをして、それに絵を書いたカードなど売っているのですが、彼女は、もうひと工夫した商品ができないだろうかとつぶやいていました。
 これまでも竹紙を照明作りに応用したり、染色関係の方が来て紙を染めたり、参加者はバラエティーに富んでいたといいます。講習で漉いたのはそれほど大きなものではなかったのですが、障子1枚分の大きさのものも会では漉いていて、それを貼った障子など見ましたがモダンな感じでした。そうしたものは壁紙とちがって薄く漉いてあるので、茶席の屏風に貼ったりしてもいいかもしれません。
 竹林を維持していくためには多くの人の手と時間が必要で、特に現在は素材的に竹に変わるものがたくさんあるため、放置された竹林をいたるところで見ます。でも今回、この活動を知り、出会った方々の熱心さに接して心強くなりました。情報が届いていないだけで、竹に関してさまざまな活動をしている人たちは、ほかにもいるかもしれません。機会があれば、今後も出向いていきたいと思います。

 *作業の手順や様子の説明が少ないため、具体的にイメージできないというご指摘を受けました。流れ作業で進んだので、全体を見渡す余裕がありませんでした。申しわけありません。
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