読み物 > 「竹のこと通信」②房総の竹屋さん
平成25年10月(2013年)
房総の竹屋さん
◇竹工芸会の仲間と千葉の千倉へ
千葉県の千倉にあるK竹材店に行くことになったのは、ひょんなことからでした。地域に水道工事があって、朝の9時から夕方の5時まで水が使えないと、ポストにお知らせが入ったのです。といっても1日だけのこと、水を溜めておけばいいわけで、それほど大事ではなかったのですが、いっそのこと出かけてしまえと考えて、K竹材店のことがひらめきました。
東京の竹屋を何軒も探訪して、記事にしたことがあったので、他県の竹屋にも興味がありました。それで、いつか行ってみたいと考えていたのですが、千葉県の千倉まで、都心から電車を乗り継いで3時間以上かかります。なかなか腰があがりませんでした。これはいいチャンスかもしれません。
毎年、冬に竹伐りと油抜きをして、その年に使う竹を調達するのですが、作品制作にずいぶんと使ってしまい、手元がさびしくなったという事情もあります。
一石二鳥というところでしょうか。どんな店なのか、見てからにしようと思っていたので、まだ一度も竹を注文したことはありませんでした。
竹工芸の仲間はメールやFAXで注文し取り寄せているようでした。その場合は送料がかかりますが、車で行っても高速を使ったりするので負担は変わらないといいます。それでもできれば現地に行って、自分で竹を選んだほうがいいと、アドバイスを受けていました。節間の長いもの、そして太い竹が竹工芸には理想で、注文するさいその旨を記載するのですが、なかなか希望に叶う竹を送ってこないそうです。たまたまそういう竹が手元になかったのか、商品選びに頓着していないのか、そうしたことも知りたいところです。
急なことでしたが、竹工芸の仲間を誘ってみました。メールで連絡すると、行きたいという返事が返ってきて、迷わずにすみそうな日暮里駅のホームで合流することにしました。そこから東京駅まで行って総武線に乗り換え、JR外房線、内房線と乗り継いで千倉まで向かいます。ちょっとした小旅行気分です。8月末で、海水浴客も少なくなっているだろうから海にも行ってみよう、と欲張ります。
東京の竹屋を何軒も探訪して、記事にしたことがあったので、他県の竹屋にも興味がありました。それで、いつか行ってみたいと考えていたのですが、千葉県の千倉まで、都心から電車を乗り継いで3時間以上かかります。なかなか腰があがりませんでした。これはいいチャンスかもしれません。
毎年、冬に竹伐りと油抜きをして、その年に使う竹を調達するのですが、作品制作にずいぶんと使ってしまい、手元がさびしくなったという事情もあります。
一石二鳥というところでしょうか。どんな店なのか、見てからにしようと思っていたので、まだ一度も竹を注文したことはありませんでした。
竹工芸の仲間はメールやFAXで注文し取り寄せているようでした。その場合は送料がかかりますが、車で行っても高速を使ったりするので負担は変わらないといいます。それでもできれば現地に行って、自分で竹を選んだほうがいいと、アドバイスを受けていました。節間の長いもの、そして太い竹が竹工芸には理想で、注文するさいその旨を記載するのですが、なかなか希望に叶う竹を送ってこないそうです。たまたまそういう竹が手元になかったのか、商品選びに頓着していないのか、そうしたことも知りたいところです。
急なことでしたが、竹工芸の仲間を誘ってみました。メールで連絡すると、行きたいという返事が返ってきて、迷わずにすみそうな日暮里駅のホームで合流することにしました。そこから東京駅まで行って総武線に乗り換え、JR外房線、内房線と乗り継いで千倉まで向かいます。ちょっとした小旅行気分です。8月末で、海水浴客も少なくなっているだろうから海にも行ってみよう、と欲張ります。
◇竹屋の店内の様子
千倉の駅に着いたのはお昼過ぎで、食事をとってから店に向かいました。今日、行くことはメールで知らせてあります。お休みを確認するためにメールを送ったら、来る日を連絡してほしいということだったので、日にちとおおよその時間を返信しました。
駅前の大通りに出て、右折し線路沿いに少し歩くと長い竹がたてかけてある一画がすぐ目に入りました。敷地に入って見渡すと、工場や倉庫らしい建物がいくつも散在しています。ホームページの写真から、店舗やギャラリーも併設しているように見えたのですが、そうしたものは見当たりませんでした。
近くの大きな倉庫のなかに人がいる気配がしたので覗いてみると、40代ぐらいの男性が1人、作業をしていました。細い竹(笛用とあとでわかりました)を50本近く箱詰めしているところでした。
挨拶し、少し話をしました。午前中はほかにも作業員がいたが、午後は自分だけだといいます。今は暇な時期で、竹伐りはこれからなので在庫はあまりないと言い、真竹はあそこと倉庫の2階に目をやって教えてくれました。
学校の教室3つ分ぐらいの大きさの倉庫で、いたるところに竹がたてかけてあります。天井までの高さは学校の体育館より少し低いくらい。2階といっても部屋があるわけではなく、吹き抜けのまま、粗く板を組んだだけのロフト風の2階です。倉庫の半分がそんな状態でした。
そこにアルミ製のはしごがかかっていて、昇り降りするようです。足をかける部分が少しへこんでいました。2階までは10段ぐらいあってしかも傾きは急です。
駅前の大通りに出て、右折し線路沿いに少し歩くと長い竹がたてかけてある一画がすぐ目に入りました。敷地に入って見渡すと、工場や倉庫らしい建物がいくつも散在しています。ホームページの写真から、店舗やギャラリーも併設しているように見えたのですが、そうしたものは見当たりませんでした。
近くの大きな倉庫のなかに人がいる気配がしたので覗いてみると、40代ぐらいの男性が1人、作業をしていました。細い竹(笛用とあとでわかりました)を50本近く箱詰めしているところでした。
挨拶し、少し話をしました。午前中はほかにも作業員がいたが、午後は自分だけだといいます。今は暇な時期で、竹伐りはこれからなので在庫はあまりないと言い、真竹はあそこと倉庫の2階に目をやって教えてくれました。
学校の教室3つ分ぐらいの大きさの倉庫で、いたるところに竹がたてかけてあります。天井までの高さは学校の体育館より少し低いくらい。2階といっても部屋があるわけではなく、吹き抜けのまま、粗く板を組んだだけのロフト風の2階です。倉庫の半分がそんな状態でした。
そこにアルミ製のはしごがかかっていて、昇り降りするようです。足をかける部分が少しへこんでいました。2階までは10段ぐらいあってしかも傾きは急です。
◇敷地の中を見て回る
先に敷地全体を見せてもらうことにして、あちこちをのぞいてまわりました。倉庫のほかに大小の作業場があって、大きな作業場では扇風機がまわっていました。でも人の姿はありません。倉庫の男性は、午後は自分しかいないと言っていたので、倉庫と往復しながら作業して、扇風機はつけっぱなしなのか。あるいは午前中に作業した人が消し忘れたのか。
屋根はありますが周囲はむきだしのまま、敷地のなかには、いろいろな機械が置いてありました。一緒に行った彼女は実家が埼玉の竹屋さんで、今でもお兄さんが跡を継いで営業をしています。そのため幼い頃から火であぶって竹をまっすぐにする作業などを見て育ちました。懐かしいとしきりに言って、何のために使う機械か説明してくれました。お兄さんの店は、現在は流通が主で、そうした機械類はもう置いていないということです。
でも屋外にある機械や道具類は、十分に手入れされていなくて放ってある感じでした。それで一巡りしたあと、つい現役のものなのか聞いてしまいました。どの機械も作業に必要で、すべて使っているとのことでした。
屋根はありますが周囲はむきだしのまま、敷地のなかには、いろいろな機械が置いてありました。一緒に行った彼女は実家が埼玉の竹屋さんで、今でもお兄さんが跡を継いで営業をしています。そのため幼い頃から火であぶって竹をまっすぐにする作業などを見て育ちました。懐かしいとしきりに言って、何のために使う機械か説明してくれました。お兄さんの店は、現在は流通が主で、そうした機械類はもう置いていないということです。
でも屋外にある機械や道具類は、十分に手入れされていなくて放ってある感じでした。それで一巡りしたあと、つい現役のものなのか聞いてしまいました。どの機械も作業に必要で、すべて使っているとのことでした。
◇話がかみあわない
彼女が千葉県の竹屋さんの名前をいくつかあげて近況を訊ねました。千葉には彼女のお父さんが商売をしていたころ、懇意にしていた竹屋さんが何軒もあったそうです。共通の知り合いの名前が出て、半信半疑だった男性がほっとした表情を浮かべました。
ほかにもいろいろと質問をしました。でも、もごもごとした返事しか返ってきません。
見知らぬおばさん2人が、メール連絡だけでやってきて、しかも実家は竹屋なんですとか、あの機械は何に使うのですかと矢継ぎ早に質問するのです。戸惑って当然でした。竹工芸をやっていて、竹が欲しくて、仲間に紹介されてと説明しても、そう簡単に事情が飲み込めるはずもありません。
ほかにもいろいろと質問をしました。でも、もごもごとした返事しか返ってきません。
見知らぬおばさん2人が、メール連絡だけでやってきて、しかも実家は竹屋なんですとか、あの機械は何に使うのですかと矢継ぎ早に質問するのです。戸惑って当然でした。竹工芸をやっていて、竹が欲しくて、仲間に紹介されてと説明しても、そう簡単に事情が飲み込めるはずもありません。
◇2階へ上がって竹を選別
話も途切れたので、さて、ということで2階にあがって竹を選ぶことにしました。高所恐怖症で踏み台にのぼっても足が震えるのに、瞬間的にそうしたことは吹き飛び、はしごをあがっていました。彼女も続きます。
あがってみてわかったのですが、真竹のたてかけてある所まで行くには、細い丸太の上を歩かなければなりません。その丸太もきっちりと並んでいるわけではなく、素通しで1階の床が見えます。さすがに足がすくみました。
「わたしは平気だから」と彼女はその丸太の上をさっさと歩いて向こう側の板場に移りました。素足にサンダル履きです。
距離にして3メートルぐらいでしょうか。壁の骨組みなどにつかまりながら後を追いました。
手早く数本の竹を選んで下を見ると男性の姿が見えません。仕方なく選んだ竹を横にしてはしごまでもどると、どこからともなく男性が現れ「竹を受け取ります」と声をかけてきました。
男性の姿が見えなかったので、わかるように横にしておいたのに、2階から受け渡すとなると、もどって竹をおろさなければなりません。
躊躇していると彼女が「私が行くわ」と言って難なく丸太を渡りました。彼女は、竹はまだたくさんあると言って買わなかったので、もうしわけなかったけれど助かりました。はしごをおり地面に足が着くとほっとしました。
費用を払い、送り先を告げて駅までもどり、駅員に海の方角を聞いて向かっている間、2人で笑い転げました。男性は、まさか私たちが本当にはしごをのぼっていくとは思わなかったのでしょう。さっとのぼり出したので、声をかける間もなかったに違いありません。急にいなくなったのは、何かあったときのことを考えて逃げ出したのか。
雰囲気から自分たちで登るしかないと思ってのことだったのですが、頼めばかわりに登ってくれたのでしょうか。どちらにしても男性にとっては迷惑な話です。申しわけないと思いながらも、思い出すとおかしくて仕方ありませんでした。
あがってみてわかったのですが、真竹のたてかけてある所まで行くには、細い丸太の上を歩かなければなりません。その丸太もきっちりと並んでいるわけではなく、素通しで1階の床が見えます。さすがに足がすくみました。
「わたしは平気だから」と彼女はその丸太の上をさっさと歩いて向こう側の板場に移りました。素足にサンダル履きです。
距離にして3メートルぐらいでしょうか。壁の骨組みなどにつかまりながら後を追いました。
手早く数本の竹を選んで下を見ると男性の姿が見えません。仕方なく選んだ竹を横にしてはしごまでもどると、どこからともなく男性が現れ「竹を受け取ります」と声をかけてきました。
男性の姿が見えなかったので、わかるように横にしておいたのに、2階から受け渡すとなると、もどって竹をおろさなければなりません。
躊躇していると彼女が「私が行くわ」と言って難なく丸太を渡りました。彼女は、竹はまだたくさんあると言って買わなかったので、もうしわけなかったけれど助かりました。はしごをおり地面に足が着くとほっとしました。
費用を払い、送り先を告げて駅までもどり、駅員に海の方角を聞いて向かっている間、2人で笑い転げました。男性は、まさか私たちが本当にはしごをのぼっていくとは思わなかったのでしょう。さっとのぼり出したので、声をかける間もなかったに違いありません。急にいなくなったのは、何かあったときのことを考えて逃げ出したのか。
雰囲気から自分たちで登るしかないと思ってのことだったのですが、頼めばかわりに登ってくれたのでしょうか。どちらにしても男性にとっては迷惑な話です。申しわけないと思いながらも、思い出すとおかしくて仕方ありませんでした。
◇もう一軒の竹屋さん
海に行く途中でもう一軒、竹屋さんを見つけました。さきほどの竹屋さんは雑然とした感じでしたが、この店は掃除も行き届き、竹もきちんとそろえてたてかけてあります。ガラス窓を通して見える事務所内もこぎれいに片付いていました。こうしたところに店主の性格がでると、つい比較してしまいます。
誰かいれば話を聞けたのですが、敷地内のどこにも人影はありませんでした。千葉にはたくさんの竹屋さんがあったが今は数軒だけ、と先の竹屋さんが言っていましたが、残った1軒のようです。でもほとんどが竹垣用の竹で、竹工芸用の真竹は見当たりませんでした。
海まで歩いて十数分。午後の日差しはかなり強く、車がたまに行きかうだけです。海水浴客どころか誰もいない海辺で一休みした後、駅にもどり電車を待ちました。
誰かいれば話を聞けたのですが、敷地内のどこにも人影はありませんでした。千葉にはたくさんの竹屋さんがあったが今は数軒だけ、と先の竹屋さんが言っていましたが、残った1軒のようです。でもほとんどが竹垣用の竹で、竹工芸用の真竹は見当たりませんでした。
海まで歩いて十数分。午後の日差しはかなり強く、車がたまに行きかうだけです。海水浴客どころか誰もいない海辺で一休みした後、駅にもどり電車を待ちました。
◇失敗した注文
外房線も内房線も1時間に1本程度のダイヤで、どちらを使っても東京駅までの時間は変わらないと駅員が教えてくれました。
電車に乗ったときはまだ空が明るかったのに、ディズニーランドのある舞浜駅あたりで真っ暗になりましたが、かわりに遊び帰りの親子連れがたくさん乗り込んできて、車内は明るくなりました。低山と木々の連なりが長く続いた車窓も、気づくとビル群に変わっています。いい竹を選んだので、後日送られてくるのが楽しみでした。でも荷物を見た途端、しまったとがっくりです。1節で伐って梱包してくださいとお願いしてありました。それは間に節が1つの2節分の長さで、という意味だったのですが、送られてきた竹はすべて節なしの状態でした。つまり1節分になっていたのです。こちらの説明ミスでした。節なしの長さの竹では小さな作品しか作れません。結局メールで、2節分に伐った竹を、再度注文することになりました。
電車に乗ったときはまだ空が明るかったのに、ディズニーランドのある舞浜駅あたりで真っ暗になりましたが、かわりに遊び帰りの親子連れがたくさん乗り込んできて、車内は明るくなりました。低山と木々の連なりが長く続いた車窓も、気づくとビル群に変わっています。いい竹を選んだので、後日送られてくるのが楽しみでした。でも荷物を見た途端、しまったとがっくりです。1節で伐って梱包してくださいとお願いしてありました。それは間に節が1つの2節分の長さで、という意味だったのですが、送られてきた竹はすべて節なしの状態でした。つまり1節分になっていたのです。こちらの説明ミスでした。節なしの長さの竹では小さな作品しか作れません。結局メールで、2節分に伐った竹を、再度注文することになりました。